大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和27年(ワ)7626号 判決

原告 大成建設株式会社

被告 株式会社東京相互銀行 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

以下黄色合同株式会社のことを黄色合同と、株式会社東京相互銀行のことを東京相互と、株式会社平和相互銀行のことを平和相互と略称する。

原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告に対し、金七十万円およびこれに対する昭和二十七年十月二十八日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告らの負担とする。」との、仮執行の宣言つきの判決を求め、請求の原因として、かつ被告らの主張に対して、次のとおり述べた。

一、原告は建築請負を業とする株式会社、被告らはいずれも相互銀行の業務を営む株式会社である。

二、原告は、昭和二十六年六月二日訴外黄色合同との間に、工事代金八百四十万円、竣工期限四カ月以内ということで、東京都港区芝新橋一丁目十二番地の一に黄色会館(黄色合同がそう呼ぶ)を新築する工事の請負契約を締結した。

三、そして右契約締結と同時に、右工事代金の支払方法に関して、原告、被告ら、黄色合同の三者は、請負契約に附帯する契約(甲第二号証はその証書)を締結した。その附帯契約で、被告らは、黄色合同が原告に負担する工事代金債務八百四十万円を、黄色合同に代つて原告に支払う義務を負担し、(1) 請負契約と同時に金二百八十万円、(2) 昭和二十六年六月末日に金百四十万円、(3) 同年七月末日に金百四十万円、(4) 同年八月末日に金百四十万円、(5) 竣工引渡のときに金百四十万円と、分けて原告に支払うことを約束した。

四、原告は黄色会館新築工事を昭和二十六年十二月十五日に完成し、翌十六日これを黄色合同に引渡した。

五、しかるに被告らは前第三項(5) の金百四十万円を支払わない。これは被告らにおいて平等の割合をもつて支払うべき分割債務であるから、原告は被告らに対し、各自七十万円およびこれに対する訴状送達の翌日たる昭和二十七年十月二十八日から完済に至るまで年六分の商事法定利率(本件附帯契約は原、被告らいずれにとつても営業のためにする商行為である)による遅延損害金の支払を求める。

被告らの主張はことごとく失当である。

一、本件附帯契約によつて、被告らが原告に対し、前記工事代金を黄色合同に代つて支払うことを約したことは、右附帯契約が原告、被告ら、黄色合同の三者間において締結された三面契約であることによつても、また附帯契約書(その内容は別紙のとおり)第一条ないし第三条の規定に照しても、明らかである。

被告らは、右附帯契約書第二条に、黄色合同が被告らに対する委託を解除することができない旨の条項および原告が被告らから受領した金員を工事代金に充当する旨の条項がある以上附帯契約の主旨を原告主張のごとく解することは不合理であるようにいう。しかしながら、右の委託解除禁止条項は、黄色合同が被告らに対する委託を解除した場合に起るべき、被告らが、一方において依然原告に対し工事代金支払義務を負担しながら、他方において原告に対する右義務の履行が黄色合同に対しては委任事務の処理とはならないというような好ましからざる結果をさけるために、換言すれば、被告らの利益をはかるために存在の意味ある規定であり、工事代金に充当する旨の条項は、原告が被告らから受領した金員を工事の進捗程度に応じて工事代金に適宜充当することができるという、いわば念のために設けた規定であるにすぎない。しかりとすれば、右条項は本件附帯契約の趣旨を原告主張のごとく解するに何ら妨げとならないのみか、むしろ原告の主張を根拠ずけるに足るものである。

二、本件附帯契約と、被告ら主張のいわゆる融資契約との関係について一言するに、右融資契約は、被告らが本件附帯契約を締結するに至つたことの単なる縁由であり、かつ原告の関知しない被告らと黄色合同との間の資金関係であるにすぎない。したがつて、被告らは、黄色合同に対する融資拒絶をもつて原告に対抗することはできないのである。

三、黄色会館新築工事を、地下一階地上二階建から地下一階地上三階建に変更して工事をしたことは、認める。しかし、右三階増築は、すでに行政庁の建築許可を得たと黄色合同がいつていたのを信用して、施工したまでであり、しかも被告らは右増築のことを了知していたのである。黄色会館工事が建築法違反の違法建築であり、東京都から撤去命令が発せられているという事実は知らない。仮りに三階増築が違法であつて、撤去命令がでているとしても、附帯契約にいう建物(二階までの部分)には何らの瑕疵がない。

また、右建物(三階増築の部分をも含めて)の黄色合同への引渡については、原告において被告らを無視したわけではない。事実は、昭和二十六年十二月十七日に黄色合同が強引に建物に入り込み、事実上引渡が行われた結果になつて、被告らの承諾を得る機会がなかつたにすぎない。被告らは右の事実を了知しながら、あえて異議を申し出でなかつたのであるから、結局被告らの承諾があつたと同じことである。

以上の次第で、建物の完成引渡がないとする被告らの主張は理由がない。

四、被告東京相互の「要素の錯誤」に関する仮定抗弁事実は否認する。

以上のとおり述べた。〈立証省略〉

被告東京相互訴訟代理人、同平和相互訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

一、請求原因第一、二項の事実は認める。

二、同第三項の事実中附帯契約なるものを締結し、甲第二号証(その内容は別紙の通り)の証書を作つた事実は認めるが、契約の内容は争う。

三、同第四項の事実は知らない。

四、本件附帯契約中請負代金支払に関する約款は、被告らが黄色合同との間の融資契約にもとづいて同会社に融資すべき貸金を、同会社の委託によつて原告に交付することを約したに止り、それ以上原告のいうような義務を原告に対し直接負担した主旨ではない。したがつて、被告らとしては、黄色合同に対し融資義務を負うかぎりにおいて、本来は黄色合同に渡すべきその融資金を、黄色合同の委託により原告に渡さなければならないが(黄色合同はその委託を解除することができぬ)、黄色合同に対し融資を拒絶することができるにおいては、原告に金を渡す必要もないわけである。すなわち、被告らは、如何なる意味においても原告に対し直接の義務を負うものでなく、仮りにこれを負うとしても、それは被告らが黄色合同に対し融資義務として融資金を渡さねばならぬことを前提とするものである。

ところで、被告らと黄色合同との間の融資契約というのは、昭和二十六年六月一日、黄色会館新築工事代金八百四十万円を被告らが平分して黄色合同に融通することを約した契約である。この融資契約で、被告らは黄色合同に対し、前記請負契約の定めるところに従い、その代金に当る額を順次融通し、黄色合同は右融通を受けた金員を日掛で被告らに返済すべく、もしこの返済を怠るときは被告らにおいてその後の融資を拒絶することができる旨を定めた。

この融資契約により、被告東京相互は、昭和二十六年六月一日金百九十八万円、同年六月三十日、七月三十一日、八月三十一日、各金九十九万円を、被告平和相互は同年六月二日金百九十八万円、同年七月十六日、同月三十一日、同年八月三十一日各金百十五万二千円を、それぞれ黄色合同に融資し(右にあげた額は返済期までの利息を含めた額である)、実際の手渡金各三百五十万円(合計七百万円)を、黄色合同に交付する代りに原告に交付し、黄色合同は、被告東京相互に対しては、昭和二十六年六月一日の融通金につき一日六千六百円ずつ、その他の融通金につき一日金三千三百円ずつ、被告平和相互に対しては、昭和二十六年六月二日の融通金につき一日五千五百円ずつ、その他の融通金につき一日金三千二百円ずつを日掛で返済することを約した。しかるに黄色合同は融資を受けて間もなく日掛返済をしなくなつたので、被告らは約旨によりさいごの百四十万円(七十万円ずつ)の融資を拒絶したのである。

五、仮りに原告主張のように被告らが原告に対し直接前記工事代金を支払うべき義務を負担したとしても、原告の請求する百四十万円については、次のとおり、まだ履行期が到来しない。前記附帯契約によると、工事の変更追加をするには被告らの承認を得なければならないことになつている。しかるに原告は被告らの承認を得ることなく二階建の設計であつた黄色会館新築工事を三階建の構造に変更して工事をした。しかも右増築については東京都の建築許可を得ていなかつたので、東京都は建物全部(一、二、三階とも)について撤去命令を発した。このような建物はそれ自体瑕疵があつていまだ完成したとはいえない。また本件請負契約においては、建物が完成したときは原告は黄色合同の検査を受けてこれを黄色合同に引渡すことになつているが、前記附帯契約において、当事者は、右検査は被告らの立会のもとに行い、その引渡は被告らの承諾を得て行わなければならないと定めた。しかるに、原告は、被告ら不知の間に、被告らの検査立会を経ることなく、右建物全部を黄色合同に引渡してしまつた。附帯契約に「竣工引渡のとき」百四十万円支払うとある、その竣工引渡というのは、被告らの立会のもとに検査をしたうえで、被告らの承諾を得てした引渡を指すのであるから、原告の行つた右引渡は附帯契約にいわゆる竣工引渡には当らない。ところで附帯契約によると、請負代金分割払のさいごの百四十万円の支払は建物の完成引渡があつたのちに行うべきものであるから(建物の完成引渡は請負代金百四十万円の支払に対し先給付の関係にあるから)、建物の完成引渡のない本件においては右百四十万円の履行期はいまだ到来しない(黄色会館は、附帯契約により、前記融資金債権の譲渡担保とする約定であつたから、以上の諸事項については、被告らは、実質的にも利害関係をもつていた)。

六、なお被告東京相互のみは次のとおり抗弁する。仮りに、原告主張のように、被告らが原告に対し、前記融資契約にかかわりなく、直接本件工事代金支払義務を負担するような意思表示をしたとすれば、それは被告らの真意に離れることあまりにも遠いのである。黄色合同が日掛返済を怠れば被告らはその後の融資を拒むことができる約定であつたこと、さきに述べたとおりであるが、そのような場合にもなお被告らが工事代金を原告に支払わなければならないなどとは、被告らの夢想だにしなかつたところである。結局前記約定は被告らの意思表示の要素に錯誤があつて無効である。以上のとおり述べた。〈立証省略〉

理由

昭和二十六年六月二日、原告と黄色合同とが東京都港区芝新橋一丁目十二番地の一に黄色会館(黄色合同がそう呼ぶ)なる建物を工事代金八百四十万円竣工期限四カ月以内で新築する工事請負契約を締結し、かつ原告と黄色合同と被告らとが「工事請負契約附帯契約書」(甲第二号証)なるものを作つて右工事代金の支払に関する契約をしたことは、当事者間に争いがない。

この附帯契約の内容については当事者間に争いがある。その内容は契約書(甲第二号証)に別紙のとおりあらわれているが、その主旨必ずしも一目瞭然といえないから、まずこの点について判断する。

甲第一号証の一ないし三、甲第二号証(甲第一号証の一は証人相馬謙七の証言により、甲第一号証の三は弁論の全主旨により真正にできたと認められ、その他は真正にできたこと争いなし)と、証人相馬謙七、内田宗次郎、長沢通明、山口達也、梅原進三郎の各証言とを合せ考えると、次のとおり認めることができる。

黄色合同の実権者王長徳(社長の夫)は、昭和二十六年三月初頃、原告会社の営業課長相馬謙七の知合の平野某の紹介で、原告会社に対し、黄色会館建築工事を請負つてもらいたいと申入れた。原告は、黄色合同の信用状態が不明であつたので、これを断る方針を定めたが、王がしばしば宮腰代議士、布施弁護士らを伴つて熱心に頼み込んできたので、とにかく設計だけは引受けることにした。その後王はみずから建築許可を得て更に原告に同じことを頼んだ。原告はこころみに建築の見積りをしたところ、それは王の希望にそわぬものであつたので、王はこれを理由に従来の申入を撤回したいと申出でた。原告も、本来気の進まぬ話であつたので、これを諒承した。それは昭和二十六年四月頃のことであつた。かくて右建築工事請負の件は全く白紙状態に戻つたが、間もなくまた王は原告に対し、さきの見積通りの価格でよいから設計変更のうえ黄色会館建築工事を請負つてもらいたいと申込んだ。原告は、依然として黄色合同の支払能力に信頼をおくことができなかつたので、拒絶するつもりであつたが、同年六月一日に至り黄色合同と被告らとの間に、被告らが黄色合同に八百四十万円(四百二十万円ずつ)を融資する旨の契約ができ、かつその融資金は右請負代金の支払として被告らから原告に直接交付することにするとの下話がととのつたことを知つたので、従来の態度を改め、同月二日黄色合同の申込を承諾した。かくてこの昭和二十六年六月二日、原告と黄色合同との間に、工事請負代金八百四十万円、竣工期限四カ月以内ということで黄色会館新築工事請負契約ができ、原告と黄色合同と被告との間に、右請負代金の支払に関し附帯契約ができた。この附帯契約において原告と黄色合同と被告らは、請負代金の支払に関し、(イ)被告らは別途融資契約により黄色合同に対し金八百四十万円(被告ら各四百二十万円)を融資する、(ロ)黄色合同はその融資金を請負代金の支払として原告に渡すことを被告らに委託し、被告らはこの委託により右融資金を黄色合同に渡さずに原告に渡すこと(請負代金の弁済期は、契約と同時に二百八十万円、昭和二十六年六月末日、七月末日、八月末日及び竣工引渡のとき各百四十万円であり、したがつて被告らが原告に右融資金を渡す時期も右と同じ)、(ハ)黄色合同は(ロ)の委託を解除することができない、(ニ)被告らと黄色合同との間の融資契約に基く融資義務を履行しなければならぬ関係にある限り原告は被告らに対し直接前記八百四十万円の支払を請求することができ、被告らから原告に渡された右金員は請負代金の支払に充当されるものとする(これに対し黄色合同は異議を述べない)、(ホ)黄色合同の原告および被告らに対する債務不履行により原告または被告らがその業務を履行することができなくなつたときは原告と被告らは善意をもつてその後の処置を協議する、と定めた。

以上のとおり認めることができる。

原告は、「被告らは、被告らと黄色合同との間の融資契約にかかわりなく、原告に対し、原告と黄色合同との間の工事請負代金を支払う義務を負つた。黄色合同と被告らとの間に融資契約ができたことは単に被告らが原告に対し右工事代金の支払義務を負うに至つたことの縁由であるに過ぎない。」という。しかしそうみることは、附帯契約書(甲第二号証)の文面から少し離れることになるのみならず、被告らがそれほどまで黄色合同に尽さなければならない事情があることは認められないから、原告のいうところは納得できない。

この点について、原告は、また、「附帯契約第四条の『万一本工事請負代金が金八百四十万円を超ゆる場合あるも丙(被告ら)は甲(黄色合同)及び乙(原告)に対しその超過部分について何等その融資又は代位支払の責に任じない』という規定は、請負代金支払に関する附帯契約の約款の主旨を原告のようにみなければ、その存在理由がわからなくなる。」という。請負契約においては請負代金が増加しやすい、原告と黄色合同との間の請負においてもそういうことが起るかもしれない、その場合においても被告らは金八百四十万円を超えては融資の義務を負わない、という主旨を、附帯契約第四条は、念のために明らかにした、と認めるのが相当である。しかりとすれば、いかにも、この第四条はあまり意味のある規定ではないが、この程度の念のための規定は契約書にはよくあることであり、これがあつたからといつてさきの認定の妨げにはならないし、これがある以上必ず原告のいうように認定しなければならないというものでもない。原告のいうところは納得することができない。

一方被告らは、「被告らは単に黄色合同に対し委託契約上の義務(黄色合同の委託により融資金を原告に渡すという)を負つたにとどまり、原告に対し直接義務を負つたものではない。」という。しかし、このようにみることは、やはり附帯契約書(甲第二号証)の文面にやや反し、原告をも含めて三面契約として主旨を没却することになるのみならず、実質的に考えても、かくては被告らが任意に融資金を原告に渡さぬ限り、原告は思わぬ損失を蒙ることになるのであるから、被告らのいうところは納得できない(被告らと黄色合同とが原告のためにやつたことは第三者のためにする契約に似ているが、原告も契約の当事者になつているから第三者のためにする契約そのものではない)。

証人内田宗次郎の証言中にはさきの認定に反する部分も出てくるが、それは採用することができない。

要するに、被告らは、黄色合同に対する八百四十万円の融資義務を履行しなければならぬ関係にある限り(融資を拒むことができる特別の事情の起らぬ限りそうである)、その金額を原告に渡さなければならない。いやになつたといつて融資を拒み、その金額を原告に渡さずにすますということはできない。この限度において原告は被告らに対し直接の請求権を取得するのである。しかし融資契約上融資を拒むことができる正当な事由(例えば、借受金返済につき黄色合同に債務不履行があればその後の融資を拒むことができるというような約定があつて)が発生すれば、被告らは黄色合同に対する融資を拒み、これを原告に渡さずにすますことができるのである。

さて然らば被告らと黄色合同との間の融資の契約はどういうものであろうか。

乙第一ないし第五号証、丙第一号証、同第二号証の一ないし四(乙第五号証は弁論の全主旨によつて真正にできたと認められる。その他が真正にできたことは、当事者間に争いがない)と証人長沢通明、山口達也、梅原進三郎の各証言と弁論の全主旨とを合せ考えると、次のとおり認めることができる。

黄色合同は本件請負代金八百四十万円の調達にこまり宮腰代議士らを頼んで被告らに金融を申込んだところ、被告らは、昭和二十六年六月一日、これを承諾し、各自四百二十万円ずつを請負代金弁済期に応じて黄色合同に分割融通することを約した。そして黄色合同と被告らとの間においては、右融通金は黄色合同が日掛で返済すべく、もしこの返済を怠るときは被告らはその後の融資を拒絶することができる旨の約定ができた。かくて被告らは被告ら主張のとおり各四回に被告ら主張の金額を黄色合同に融通し、合計七百万円(請負代金の分割支払金中最初の四回分)を原告に渡し、黄色合同は被告ら主張のとおり日掛で返済することを約したが、黄色合同は、被告東京相互に対してはごく僅かの日掛返済をしたのみで間もなく返済を怠り、被告平和相互に対しても間もなく日掛返済を怠り、昭和二十六年十月中から全然返済しなかつた(日掛返済を怠つたのちにも被告らは黄色合同に融資していた)。そこで、被告らは黄色合同に対するさいごの融資金百四十万円(竣工引渡のときに黄色合同が原告に払うべき百四十万円にあたるもの)の融資を拒絶した。

以上のとおり認められる。

してみると、前記請負代金八百四十万円中さいごの百四十万円については被告らは黄色合同に融通しなくてよいことになつたわけであり、したがつてまた、被告らは右百四十万円を原告に支払うべき義務を負わない、といわなければならない。

原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広)

工事請負契約附帯契約書

黄色合同株式会社を甲とし大成建設株式会社を乙とし東京殖産無尽株式会社及び平和貯蓄殖産無尽株式会社を丙として別紙昭和二十六年六月二日附工事請負契約書(以下原契約書と称する)を以て甲乙間に締結した黄色合同会館新築工事請負契約に関し以下甲乙丙三者間に附帯契約を締結する。

第一条 原契約書第一条に基く新築工事請負代金八百四拾万円也は別に甲丙間に同金額を手取借用極度金額とする融資契約に因り甲はこれを丙より借受け丙は甲に貸付けることを承認したるについては甲の依頼により丙は右融資金を甲に代つて乙の申出に応じ第三条により直接乙に支払うものとする

第二条 事由の如何を問わず甲は前条による請負代金の代位支払につき丙に対する委託を解除しないのみならず乙が丙より受領した該金員を適宜工事代金に充当することにつき甲は一切異議を申出でない

第三条 丙は第一条により乙に対し金八百四拾万円を極度としてその請負代金を左の時期に分割して乙に支払うものとする

一、請負契約と同時に 金弐百八拾万円まで

一、六月末日 金壱百四拾万円まで

一、七月末日 金壱百四拾万円まで

一、八月末日 金壱百四拾万円まで

一、竣工引渡のとき 金壱百四拾万円まで

第四条 万一本工事請負代金が金八百四拾万円を超ゆる場合あるも丙は甲及び乙に対しその超過部分について何等その融資又は代位支払の責に任じない

原契約書添付工事請負規程各条項に基き甲が乙に対し工事代金八百四拾万円の外に支払うことを要する費用其の他の負担金についても亦前項に準ずる

第五条 左記各号については甲及び乙はその都度丙の承認を得るものとする

一、原契約書添付工事請負規程第二条に定める事項(一括委任と下請)

二、同第三条に定める事項(権利義務の譲渡等)

三、同第七条に定める事項(工事の変更追加)

四、同八条に定める事項(工期の変更)

五、同第十四条に定める事項(火災保険)

六、同第十七条に定める事項(部分使用)

七、同第十八条に定める事項(瑕疵担保)

八、同第二十条に定める事項(甲の解除)

第六条 本工事完成引渡前に火災その他天災事変により又は甲若くは乙の都合により本工事を中止したる後再びその復旧又は続行を為さんとするときは丙の承諾を得べきは勿論丙に於て承諾せざることあるも甲は一切異議を申出でない

第七条 左記各号については甲及び乙はその都度直ちに丙に通知すること

一、原契約書添付工事請負規程第四条に定める事項(現場代理人主任技術者)

二、同第九条に定める事項(請負代金の変更)

三、同第十条に定める事項(臨機の措置)

四、同第十一条に定める事項(一般的損害)

五、同第十三条に定める事項(危険負担)

六、同第二十一条に定める事項(乙の解除)

七、同第二十三条に定める事項(紛争の解決仲裁)

第八条 原契約書添付工事請負規程第十四条第三項に基き乙が火災保険を受取つたとき既に乙が丙から支払を受けた工事費があるときは乙は同項の定めに拘らずこれに相応する金額を丙に支払うものとする

丙は前項により乙より受領した保険金を甲に対する債権の弁済期限の到否に拘らず其の弁済に充当するものとする

第九条 原契約書添付工事請負規程第十五条に定める検査については甲及び乙は丙の立会のもとにこれをなし且つその引渡しについては丙の承諾を得てこれをなすものとする

第十条 甲は前条により本請負契的の目的である建物を第一条に因る丙の甲に対する融資金の譲渡担保として丙に提供するものとし前条により該建物を乙より引渡し受けたときは甲は直ちにこれを丙に引渡すものとする 但し丙の要求あるときは乙は該建物を直接丙に引渡すものとし甲は何等異議なきものとす

第十一条 本附帯契約に基き丙の負う融資その他一切の義務は丙の両会社に於て平等の割合を以て負担し履行する

第十二条 本附帯契約に基く丙の権利義務は総て両会社に於て共同し実行する 但し已むを得ざる事由あるときはその限りでない

第十三条 事由の如何を問わず万一甲の乙又は丙に対する債務不履行に因り若しくは万已むを得ざる事由に因り乙又は丙に於てその業務を履行すること能はざるときは乙及び丙は互に善意を以て爾後の処置を協議の上定める

第十四条 沢田冬子、王長徳は原契約書及び本附帯契約書に基く甲の乙又は丙に対する一切の義務につき連帯してその履行の責に任ずる

第十五条 この附帯契約書に定めていない事項については必要に応じて総て信義に従い甲乙丙協議の上これを定める右契約の証として本書四通を作成し当事者記名捺印の上各壱通を保有する

昭和二十六年六月二日

東京都目黒区三谷町七六番地

註文者(甲) 黄色合同株式会社

取締役社長 沢田冬子

東京都中央区銀座三丁目四番地一

請負者(乙) 大成建設株式会社

取締役社長 藤田武雄

東京都台東区西黒門町五六

出資者(丙) 東京殖産無尽株式会社

専務取締役 市川匡

東京都中央区銀座三ノ三

出資者(丙) 平和貯蓄殖産無尽株式会社

取締役社長 小宮山英蔵

連帯保証人 沢田冬子

連帯保証人 王長徳

立会人 宮腰喜助

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例